ヒビムシ 4-02

第2回 山田坂本:ウラナミシジミ

沢田佳久

 10月1日の夜半に「爆弾低気圧」なるものが通過した.暴風雨になると事前に知らされていたので,天気を気にしながら過ごした.高速で東進する低気圧にひきづられる形で寒冷前線に沿った雲の帯も移動していく…それを「ひまわり8号」の画像でチェック.3Dモデルに変換してグリグリして眺める.通り過ぎた低気圧の本体よりシッポの寒冷前線が活発化,外では轟音をたてて荒れ狂っている.昔の台風襲来とは別の形の緊張感だ.
 一夜明けて晴れの10月2日,昼から近場の「山田坂本」と呼んでいる場所に行った.以前(春編第一回)書いた「押部谷木津」と同様,住宅地化の波に飲み込まれずに残った農村風景,みたいなところである.つくはら湖上流に広がる豊かな水田を見下ろす丹生山系の南斜面に位置する集落,行政区分では神戸市北区に含まれる.で,それを当日のうちに書こうとしております.

 加古川水系の志染川に呑吐ダムというダムがある.「どんと」と読む.呑んで吐く,なんとダムらしい名前ではないか.たいていダムは呑吐ダムだぞ.よくまぁ固有名詞として独占できたものだ.と,思っていたら「呑吐の滝」という景勝地名に由来するのだという(今,知った).たいていの滝は呑吐だぞ.
 そしてこのダムで堰き止められてできた湖を「つくはら湖」という,衝原という集落があったのだ.もとの村は湖底に沈み,高台に移転して存続している.その上流に当たるのが坂本で,おかげで長閑な風情を残して現在に至っている.
 その山田坂本の,筆者がいつも車をとめる場所は,土日はけっこう埋まっている.近くの市民農園に通う人の車である.しかし今日は空いていた.田んぼの稲は五割くらいが刈り取られている.明日からの土日で九割くらいになるのだろう.
 空は八割方晴れなのだが,雲の動きが早く,カメラのホワイト・バランスをしょっちゅう変更することになり,けっこう苦労した.農道でもありハイキングコースでもある舗装道路には風雨で散らかった木の枝や落ち葉が落ちていた.ヒガンバナはほぼ終わりかけているが,まだ形を保っているのがあるので撮影した.立体写真向きの花だと思うのだが,なぜかいい感じに撮れず,今回もいまひとつの出来.

 市民農園になりそこねた感じの耕作放棄地にいろんな草が茂って,いい感じになっている.その一角に,たぶんヤブツルアズキだと思うが,マメ科の植物が地面を覆い,黄色い花を咲かせている.そこでウラナミシジミが繁殖しているのだ.冬が越せない種だそうで,この地ではたぶん死滅回遊.去年の秋に沢山見かけたので行ってみたら今年もいたいた.  荒天あけだが元気に飛び回っている.撮影してみるとボロけたやつばかり.産卵しているもの,交尾をせがんでいるもの,なんだか競ってるもの等々.完品の写真がないので破れた後翅で産卵している健気な姿を掲載しておこう.
 たぶんこの場所では毎年少数の飛来個体から始まって殖えに殖えて,秋にはこうして一大勢力になるものの冬には全滅しちゃう.逞しくて儚くて逞しくて儚くて…ずっと繰り返しているのである.


ウラナミシジミ産卵 立体写真の見方

 ウラナミのほかに一回り小さいツバメシジミもいた.ベニシジミ,イチモンジセセリなども撮影できたが,モンキアゲハは撮りそこねた.モンシロとキタキチョウはパス.少し先でコスモスに来ているツマグロヒョウモン♀,交尾中のヒメウラナミジャノメ,寝床を探してる感じのヒメジャノメと,けっこう蝶々を撮った日だった.なんだか変な蛹があって,帰って調べたらウラギンシジミの蛹と判明した.
 いま写真を選んでいて気づいた.撮ったチョウの多くが後翅を損傷している.鳥などに襲われた際,後翅を攻撃させてうまく生き延びたのではないか,そのためにわざわざ後翅に攻撃されやすい目印をつけているような気もする.しかし,前翅を損傷したやつは飛べなくなり,早々に死んでしまう.実際どの程度の頻度でどの部分をヤラれているのかは知るすべがない.


ウラギンシジミ蛹 立体写真の見方

 前回に続いて巨大芋虫も見た.シッポは短かめ,フジの葉を食べていた.トビイロスズメだろうと思う.上体を起こして頭と足を固める決めポーズ.


トビイロスズメ幼虫 立体写真の見方

 その隣にはハラビロカマキリの♀.枝葉の奥に居るところを二コマ撮ったあと,もう少し出てきてもらおうと干渉したら,歩かず,飛ばず,なんと落下.あの膨らんだ腹では飛べないか.秋は大きな虫が多い.
 ヒメジュウジナガカメムシの兄弟姉妹は小さいが良い感じで撮れた.たぶん一塊の卵塊から生まれ集団のまま育ったもので,多くは成虫になっているが,まだの子も残っている.


ヒメジュウジナガカメムシ 立体写真の見方

 稲刈りで追い出されたイナゴの類いがいろんなところを徘徊していた.翅の長いのと短いのがいるが,ちゃんと調べないと名前はわからない.ともかく交尾していると撮りやすいので,その都度撮った.交尾中の♂が後脚を巧くかけて♀の動きをブロックしていたりする.リスクに対して微妙に利害が対立していて興味深い.
 もう成虫になっていて,これから越冬にむかうツチイナゴもいた.イボバッタ成虫は繁殖中でこの秋限りの命だろう.
 触角が長い,鳴く虫系のも数種いた.姿の見えない,声だけ聞こえる1♂に4♀が引き寄せられている状況があり,しばらく見ていたが,マトモな写真は撮れず.これはササキリの仲間だと思う.やたらと産卵管の長い♀,未同定.

 キキョウの花,ツリガネニンジンの花,野生化したニラの花,稲穂もいちおう撮影.あまり距離は歩かず,自然歩道の入り口の溜池まで行って引き返した.数本並んだ大木の壁に西日が当たって,そこだけまだ夏っぽかったが,カキの葉と実は色づき始めている.エノキの葉の虫コブは油っぽく汚れていて,飛び立った雪虫の残骸が残っていた.

- ヒビムシ秋編 2015年10月14日号 -

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.

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