ヒビムシ 4-05

淡路島:オオヒョウタンゴミムシ

沢田佳久

 23日,今回は狙っての出撃である.ここ数年この時期に淡路島へヤマトバッタを見に行っている.同じ虫を,同じ場所に見に行くのだ.近年減っている虫なので,いつ居なくなるか分からないからである.無事を確かめにいくわけである.
 ヤマトバッタはヤマトマダラバッタともいう.まばらに草が生えた広い砂浜にいる.その生息環境さえ変わらなければ,消滅することはないだろうと思う.問題はその環境のほうで,急に状況が変わることがあるかもしれないのだ.
 ヤマトバッタは目が良く飛翔も達者なので,真昼の活発な時間帯の撮影は難しい.気温の低いうちに決着をつける作戦をとった.ものすごく早く家を出て,早く帰って,軽く寝て起きてコレを,気持ちの上では当日の23日に書いております.あと,そういう事情なので,場所を漠然と”淡路島”にしているわけです.

 ものすごく早く家を出て,夜明け前に現地に到着した.明るくなるまで仮眠.ハマゴウとコウボウムギの生えている砂浜は健在で一安心した.ハマゴウは赤い実をつけているが,一株だけ今ごろ花を咲かせているものもあった.夜露がついて良い感じの写真が撮れた.

 いそうな場所を歩き回っているうちに,7時半,足元で虫が転がった.ヤマトの♀だ.まだ歩行も覚束ない.もちろん飛べない.速攻でいろんな角度から撮影することができた.
 このところ某SNSで昆虫の正面顔が流行しているので,それも撮影.しかし何の変哲もないバッタの顔である.ヤマトの売りはたぶん,砂への擬態だろう.飛ぶときは水色の翅が映えるが,ひとたび着地すれば,明るい灰色まだらの体が砂の背景に見事にとけこむのである.


ヤマトバッタ 立体写真の見方

 この♀を一通り撮り終えて,再び歩き出してしばらくすると,今度はやや小型の個体が飛んだ.距離は短い.体が温まってないようだ.二,三回追いかけて撮影成功.♂らしい.その後もしばらく歩いてみたが,こちらの根気が続かない,今回は1♂1♀撮影で満足した.なにしろ同じ場所で同じ虫を撮っているだけなのだ.

 浜から離れようと歩き出すと,大きめの甲虫が走っていた.オサムシモドキだった.あまり見たことがないやつだ.
 このオサムシモドキはゴミムシではあるが,オサムシではない.オサムシに似ているゴミムシなのだ.
 オサムシ類とゴミムシ類の集合としての包含関係について以前に書いた,と,思ったら書いてない.あれは「ゴモク」と「ゴミ」の件だった(冬編第11回).
 「狭義のカラビーデつまりカラビーネ」と「広義のカラビーデ」と「その差分」の話である.キラキラの,誰が見てもキラキラなオサムシ類が「狭義の」であり,人によってはババちいゴミムシ類を含めると「広義の」である.和名で「狭義の」を「オサムシ亜科」と呼ぶことに異論は少ないが,「広義の」で困る.これを「オサムシ科」と呼ぶのか「ゴミムシ科」とするのか,が問題になる.一部の特殊な要素を取り上げて「オサムシ科」とする違和感がマジパねぇ.「鱗翅目」を「チョウ目」と呼んで平気か? みたいな事である.どちらにしても,その差分を「ゴミムシ類」と呼ぶ事に問題はないだろう.
 で,あらためて書き直すと,このオサムシモドキは,オサムシ科ではあるが,オサムシ亜科には含まれない(オサムシモドキ亜科).大きさなどがオサムシっぽいゴミムシ類なのだ.


オサムシモドキ 立体写真の見方

 激走しているオサムシモドキを,とりあえず数コマ撮影.黄色い脚が消える.じっくりピントを当てるため,止まってもらいたいのだが,うまくいかない.砂の谷の底に追いやったり,砂を掛けてみたり,影にしてみたり,いろいろ試すが,だめだ.何かに執り憑かれたように走り続けている.
 気づくともう一匹,走っている.ほかにも一匹.計三匹見たことになる.朝8時半,偶然ではなく,彼らは何かしているんだろう.夜勤を終えてねぐらを探しているのだろう.同じ方向に走った結果,同じ障害物にぶち当たって,ソレに沿って走り続けている,という事かもしれない.

 何なんだろうと考えながら歩いていると,さらに大きな甲虫が疾駆.今度はオオヒョウタンゴミムシである.一時はほとんど見られなくなったのだが,復活してきたのだろう.こちらも走り続けている.障害物を置いても,影にしても,触っても,止まってくれない.
 諦めて,摘み上げ,顔を撮ろうとしても,それも困難だ.正面を向いてくれない.しかたないので,ひっくり返してジタバタしている所を撮ったりする.前胸の可動域が広いのがよくわかった.たしかによく曲がる.しかしあまり捩れない.砂から立ち上がるのは得意ではないようだ.起きた瞬間を狙ったが,結局あまり上手く撮れていない.


オオヒョウタンゴミムシ 立体写真の見方

 汀から離れて植物を見て回ると,オナモミ的な草が生えていた.少なくともよく見かける要注意外来生物のオオオナモミではなく,よりゴージャスな実をつけている.あとで調べるとイガオナモミというやつらしく,もちろん外来種.状況から考えて,この場所での発生は(国内の近隣他地域からの)漂着によるものではないかと思う.
 セイタカアワダチソウの花に小型のハナムグリがたくさん来ていた.ヒメアオハナムグリばかりでコアオは居ないようだ(春編第5回で言及).たぶん越冬の都合だろう,砂地の土地では前者である.よく見かけるキンケハラナガツチバチ(夏編第9回)より一回り大きいオオモンツチバチもいた.ツチバチ類はコガネムシの幼虫で育つ.ハナムグリたちにとっては言わば仇敵にあたるのだが,成虫どうしは特に関係はない.


アオヒメハナムグリ 立体写真の見方

 そのほかは良い形のワタフキカイガラムシ,太陽光を反射して良い感じに輝いているアメリカミズアブも撮影できた.連日の晴天だ.どんどん暖かくなってルリシジミやイチモンジセセリの動きについていけない.草地にはヒナバッタが多かったが,彼らにも翻弄された末,数コマ撮れただけ.午前10時すぎには撤収することにした.

- ヒビムシ秋編 2015年11月04日号 -

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.

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