ヒビムシ 4-06

小野市中谷町:オオカマキリ

沢田佳久

 何日も晴天が続いている.久しぶりに「やしろの森公園」に向かっている途中,以前ハンミョウがたくさんいた場所の事を思い出した.公園に行く経路のひとつ,ため池が連なる浅く細い谷の道,特に何のこともない道端である.今日はまずそこに寄ることにした.と,27日の事を当日に書き始めております.
 地図を調べると「小野市中谷町」ということになる.農村の水源となっている谷の上部の里山が,ため池ごとゴルフ場になった場所のようだ.

 記憶にある情景では,道端にちょっとした空き地が露地になっていてハンミョウがいたのだが,着いてみると以前に比べ草が茂っていた.それでも疎らに地面は見えている.しばらくして土の崖で日向ぼっこをしている個体を見つけた.しかし,撮影しようと近づく途中で悟られてしまった.数メートル離れた場所へ飛び,そこに近づくと高く飛んで林の中に逃げ去ってしまった.はっきり目撃はできた.ナミハンミョウはこの時期にも成虫が活動しているのである.しかし今回はそれだけであった.

 しばらくそのあたりをうろついて虫を探すことにした.その土崖自体が良い物件だった.南向きになっていて適度に植物の根が入り込み,いろんなサイズの穴が開いている.日向ぼっこしているハエや,何やら作業しているハチがいる.それらを狙ってかクモも這っていた.
 その中での大物はオオカマキリであった.ほとんど動かないのではじめは見落としていたのだが,どうやら崖の適地に陣取って獲物の到来を待っているようだ.せっかくなので全形と顔を撮影した.
 オオカマキリに似たものにチョウセンカマキリという種がいる.両者は後翅の色で区別できるが,後翅を広げて見せてもらうのにはちょっと手間がかかる.オオカマだとは思うが捕まえて一応念のためにチェックした.やはりオオカマだった.
 しかしこのとき,この個体の闘争心に点火してしまったらしい.放してもファイティング・ポーズを取ったまま睨んでいる.古来,蟷螂というのはそういう生き物として,ちょと尊敬されているのである.
 せっかくなので,この状態で撮影させてもらう事にした.こうしてみると,黒い後翅は飛ぶときにも目立つが,威嚇するときにも大きさを強調する効果があるように思える.あるいは攻撃目標をずらす効果があるのかもしれない.


オオカマキリ 立体写真の見方

 セイタカアワダチソウが咲いていて,蝶々が来ていた.まず花から花へ飛び回っているテングチョウが目に付いた.追いかけてみたがなかなか賢い.こちらの動きは完全に認識されてるらしく,ある距離まで近づくと飛び立つのだ.
 表は橙色と白が入った派手な模様だが,裏は暗褐色の迷彩.花に止まって吸蜜中は翅を畳み,しかも前後翅を重ねて細い三角形になる.まるで蝶らしさがなく,枯葉の欠片にしか見えない.その姿を撮りたくて何度も挑戦するが,何回も撮影寸前でにげられた.わずかな成果は角度の悪いピンボケの一枚のみ.
 わりとおっとりしたセセリチョウの類もいたので,色んな角度で撮らせてもらった.模様のかすれた個体で,イチモンジかと思っていたが.写真を見直すとオオチャバネセセリのようだ.やや小型の個体だと思う.
 キタテハは地上に陣取って日光浴,するかしないか逡巡してるようだった.これにはうまく近づけた.まず翅を閉じて佇んでいるところを撮影.時々短く翅を開くので,その状態も撮ろうと待つが,なかなかタイミングが合わなかった.開き始め,のコマを掲載しておこう.裏は黒褐色迷彩に小さくC字形の斑紋,表は黄色というより橙色である.
 なお,ここにもウラナミシジミ(秋編第2回)が一匹だけいて吸蜜していた.尾状突起を含めてほぼ無傷の個体だった.


キタテハ 立体写真の見方

 ヌルデの葉が色づき始めていて,近くで見ると美しい.紅葉といえばカエデの類いだ.しかしイロハカエデは紅葉すると木全体が揃って色づき,離れて見ると見事なのだが,近づくと枝の先の葉が茶色くなってカリカリに乾いて巻いていて興醒めすることがある.葉ごとにそれぞれの紅葉具合を見せるウリハダカエデの一枝の数枚,とかの方が写真向きかもしれない.ヤマハゼなどは株単位での突出した赤さが魅力だろう.それでいくとヌルデは一枚の複葉の中に織り交ぜられた多様な色を愉しませる植物だと思う.
 そのヌルデには大きな虫コブが出来ていることがある.「五倍子」と書いたり「ふし」と呼んだりするやつだ.それを「ごばいし」と読んだり「ふし」と読んだりするし.「付子」と表記したりもする.正しい読み方だの,書き方だのが,もうどうでもいいくらいの,なんかソレ.要するに漢方薬であり染料の原料になる,古くから人との関わりあるモノなのだ.
 虫コブを作っているのはヌルデシロアブラムシである.この時期に虫コブを割ると翅のある虫が詰まっている.自然に裂けた出口から数日かけて徐々に飛び立っていくのだという.ここのヌルデにも立派な五倍子ができていて,白い粉にまみれて虫が出発の時を待っていた.

 この空き地を離れて道沿いに歩いてみた.今年はドングリがよく実って,路上にもたくさん転がっている.カリカリに乾いて,踏むたびに音がする.足の裏がクリスピー,そんな感じだ.
 カメラに気づきながらも葉をかじり続けるフキバッタの一種,これは正面顔を撮影した.集団で葉をかじっているハバチの幼虫,整然と並んでいる.こちらに気づいて後半身を持ち上げて警戒態勢をとる…やつととらないやつがいた.面白い写真だが同定できそうにない.
 セスジツユムシ♀の褐色型の個体がいた.黄緑色のものが多い中,これは明るい枯藁色である.たぶんレアだ.長い触角や脚が画面に収まるようアレコレ工夫.なおこの場所では緑色型も何匹か見かけた.


セスジツユムシ褐色型 立体写真の見方

 再び最初の空き地に帰ってきた.未練がましくナミハンミョウを探すが,やはり居なかった.ところがさっきのオオカマキリは同じ場所に張り付いていた.撮影時刻を比べると2時間弱経っている.やはり狩りに適した微地形なのだろう.
 そしてさっきは見かけなかった小ぶりの赤蜻蛉がいた.良い高さの枯れ草の塔に陣取って睨みを利かせてるようだ.筆者に気づいて飛び立ったが,すぐ定位置に戻ってくる.少し待って良い角度で撮影できた.秋らしい赤蜻蛉の図をゲット.ナツカアネだ.同定の根拠としてなるべく胸の側面図も押さえておきたいのだが,それには失敗した.ナツアカネです信じてください.


ナツアカネ 立体写真の見方

 けっきょく「やしろの森公園」に着いた頃には暗くなりかけていた.行きつけのナワシログミの花は完全に終わっており,実が太り始めていた.例のハチとアオダイショウの東屋(夏編第6回)の近くではリンドウの花が数株,きれいに咲いていた.
 この公園付近でもドングリの実がクリスピーで,それと関係あるのかないのか,徘徊性のゴミムシ類も目だった.交尾しながら遁走するペアが比較的鈍足だったので,これを狙って撮りまくったのだが,凹な構図になったり,ピンボケだったり,ブレたりで,残念な結果となった.

- ヒビムシ秋編 2015年11月11日号 -

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.

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