ヒビムシ 4-08

猫崎半島:オオハナアブ

沢田佳久

 昼夜のサイクルがずれてしまった.じゅうぶん寝て起きたら夜中というか11日の未明だった.天気予報は二重丸.ちょっと遠くへ行くことにした.行き先は行きながら考える計画だ.それを計画とはいわない.

 車検明けの車で北西方面へ向かう.とりあえず一般道で福崎あたりをめざす.雪彦の断崖とか,砥峰のススキの丘とか,建屋川沿いの里とか,そんな風景を心に描きつつ.
 行き先を決められないままどんどん進んだ.福崎から国道412号を北へ,雪彦案は却下である.生野の峠を通過して砥峰案もポツ.建屋への分岐も通過.まだ暗いので先へ進む.ラジオで11月11日でポッキー&プリッツの日だと言っているので,朝食をポッキーと牛乳に決定した.11月は良い何々の日の連続である.
 もうすぐ和田山の分岐,一本柳の交差点だぞというころに奈佐案が浮上した.日高町の奥というか,神鍋(夏編第二回)の奥というか,そのあたりに『奈佐森林公園』というのがあるのを思い出したのだ.多様な微環境があるし,今頃だと秋の風情もありそうだし,そこに向かうことにした.
 コンビニに立ち寄ったがポッキーが売り切れていたのでトマトプリッツで妥協.食べるのは日が昇ってからだと思って県道一号を進むのだが,中々明るくならない.峠道に入るあたりでもまだ夜だ.通り過ぎて別のコンビニの駐車場で休憩することにした.トマトプリッツは,もちろん,思い描いていたチョコレートのとは違う塩味で,牛乳と合わない.反省しながらももちろん完食.そのコンビニで昼用のお茶を買うつもりがポッキーを見つけてそれも買ってしまった.さらに後者を一気食い.
 雑音交じりの大阪のラジオを聞いて時間をつぶす.夜明け前の空が美しいから見ろと言っている.ここでも少し明るくなってきた.そろそろかと思い,出発したが,山道に入ると未だ暗かった.路傍の空き地に停めて再度仮眠である.
 公園の掲示には冬なので諸々の施設が利用不可としてある.入るのはOKらしい.次いで狩猟期間の猟銃注意の看板.期間には入ってないが,もうすぐだ.園内は閑散としており,実際に鹿と遭遇した.落葉が進んでいて,ウリハダカエデの大きな葉が真っ赤になって残っているくらいだ.オープンランドにはキク科の花が少しあるが,虫探しの意欲が湧かない風景だった.車道の奥まで行って車から降りもせずに転進だ.

 県道まで戻り,先に進むと番屋峠あたりは逆にまだ紅葉に彩られていた.峠を越えると竹野の町へ出る.行政区分で言うとすべて豊岡市.町の手前で竹野川の河川敷に降りてみた.クズとセイタカアワダチソウの,ありきたりの風景である.センニンソウが実をつけていたので六角形に形の整ったやつを撮影.


コバネイナゴ 立体写真の見方

 イネ科雑草のコバネイナゴを撮影.寝起きらしく動きが緩慢だった.セイタカアワダチソウの花にはアブが来はじめたが,風が強くて撮影が難しい.オオハナアブの♀の顔を撮ったがいまひとつ.ベニシジミも一匹だけいて日に向かって翅を開いている.やや汚れた個体だが,適当に荒れた表面が朝日に輝いていて,良い光景だった.しかし機敏にかわされて,なかなかピントを当てられず,やっぱりこれもいまひとつ.
 河口に近いだけあって,アカテガニがいた.この種は色彩変異が大きいようだが真っ赤な♂個体である.何かに襲撃されたのだろう,ハサミと脚一本を失っていて,それでも辛うじて生き残ったようである.


アカテガニ 立体写真の見方

 竹野の町を抜け,浜に出ようと道なりに進むと『竹野賀嶋公園』の駐車場に着いた.断崖の下の磯に出てみると干潮で,タイドプールができていた.小さめの,たぶんフナムシが陸上でも水中でも行動していた.大きい個体はみられない.別種だろうか.
 駐車場には名札を付けた猫がいた.愛想良く自身の存在を示しつつ適当な距離をとっている.こちらが歓迎的な態度をとると寄ってきて撮影させてくれた.猫好きと猫嫌いを見分けるスキルがあるようだ.あごの下をごろごろ,額をわさわさした.良い毛並みで,魚臭くもなかった.近くの宿かなにかの看板猫なのだろう,
 この駐車場から猫崎半島の先まで自然歩道が続いているようだ.北へ細長く突き出した特徴的な海岸線の猫崎半島は,地図を見て気になる場所ではあったのだが,先まで行ったことはなかった.ちょうど今回は天気も良いし時間も十分あるし,あと季節はずれで人もいないし,行ってみることにした.ポッキー的な地形のような,しかし「11」はちがうような,気もする.

 日の当たる崖の,キヅタの花がよく咲いていて,ここにもオオハナアブが来ていた.花といっても華やかさはない.樹形はぜんぜん違うが,キヅタの花に虫が来ている様子はヤツデの花のそれと同じだ.局所的に気温が高いのだろう,風は弱いが虫の動きが活発でついていけない.
 九十九折を登るとサクラを植えた広場があった.サクラの幹にはヨコヅナサシガメの若虫がちらほら,越冬場所を求めてゆっくり動いている.地面の草にはフキバッタの類いがいた.ハラビロカマキリの卵鞘も,同じ木で三個発見.オオカマ(秋編第6回)やチョウセンカマが野原のカマキリであるのと対照的に,ハラビロは森のカマキリである.その縄張りなのだなと思った.
 半島の両側面は急斜面で,海流の影響で照葉樹林が発達している.葉は茂っているが,歩道は稜線沿いに伸びてアップダウンしているので,所々でダイナミックな景色が垣間見える.賀嶋山の三角点(141m)も森の中にあった.

 カマキリが樹幹に貼りついていた.薄緑の個体なのでよく目立つ.やはりハラビロの,お腹の大きい♀だった.今から産卵なのだろう.睨まれながら撮影.


ハラビロカマキリ 立体写真の見方

 日の当たる幹や岩にはケバエの類いの♂がとまっていた.何度か見かけ,うち二回撮影したが同定不可能.下草に多いツワブキでも美しいミバエを撮影,鮮やかに黄色い小盾板などはウリミバエに似た色彩だが別の種だろう.ツワブキの葉にはハモグリバエ類のものらしき潜孔が目だった.葉の裏側にあった白い脱皮殻はツノゼミ類だろうと思う.
 ツワブキの葉の縁でマダニを発見.まさに寄主待ちしている状況だった.シカやイノシシは居そうにないが,タヌキくらいは居るのかもしれない.
 ちょうど実をつけている植物が多く,鳥の声が絶え間なく聞こえていた.途中の数ヶ所に,ムベ(春編第7回)の実が落ちていた.きれいに食われているものも,落ちたてのものもあった.状態の良さそうなのを食べてみた.赤黒い実が割れずに転がっているので,指で裂いて中身をほおばり,種だけ出す.食べやすい.甘い.たしかにアケビより美味しい.不安もあったので一個だけにした.
 歩道は猫埼灯台で終わっている.絶好の天気で良い眺望,断崖と波涛を満喫した.半島は「崎」で灯台は「埼」らしい.灯台の脇に小さな赤いポストがある.白く「〒」と書かれている.謎だ.1)灯台宛の郵便物がここに届く,2)郵便物をここに投函できる,の二説を考えたが,後者だろう.兵庫県最北端なのでその旨の特別な消印が押されるとかだろうか.どちらにしても局員が毎日来ているとは考えにくい.特定の実施日だけだろう.現地には何の説明もない.
 背の高いカタツムリがいて,気になったので裏表を撮影した.対照的に平たいのもいてこれも撮影.特徴のある形なので同定できそうに思った.ネット絵合わせではサンインマイマイ,ヘソアキコベソマイマイとかかと思うのだが,今のところ不明のままだ.調べてみてください.>検索してコレを読んでいる陸貝屋さん.
 半島には上昇気流ができているようで,トビが舞っていた.帰路で一人だけハイカーと遭遇した.挨拶だけしてすれ違う.筆者と同様に首からカメラ,鳥屋さんでも植物屋さんでもなさそう.陸貝屋さんかも.

 駐車場にもどって,浜に出てみた.海水浴むきの整備をしていない状態の浜が,すこしだけ残してあり,そこにはアマモの切れ端がうちあがっていた.良い浜だ.砂丘らしく草も生えているが,砂の循環が絶たれており消滅寸前である.風で削られた砂の斜面にモンキチョウが舞っていた.興味深いことに,翅を開くのではなく,閉じたまま砂の面に横たわるような格好で暖を取っている.まばらな草地にはマダラバッタ,クルマバッタモドキ,コバネイナゴがいた.


オオハナアブ 立体写真の見方

 狭い空き地があって,その一角だけセイタカアワダチソウが密集して咲いていた.好天のおかげで周囲の訪花性昆虫を引き寄せている.ここでもオオハナアブが多く,ヤマトシジミもいた.
 普通種なので有難みがないが,オオハナアブは邦産種の中ではたぶん最も立派なハナアブだ.黄色と黒のシンプルな配色は美しい.大型のハチをモデルとするベーツ型擬態なのだろうが,精巧なものではなく,雰囲気である.そのサイズと色彩だけで十分な威圧感を醸し出している.
 花を訪れている本種は,お尻ばかり見せており,頭部を見る機会が案外少ない.しかしその無表情な顔面にはなかなかのインパクトである.特に奇妙な模様のある眼はロボット的な生命を感じさせる.図示した個体は眼が大きく,左右が接している.これが♂だ.

 待っていれば次々と虫が来る.ただし兵庫県最北端らしい虫とか,日本海沿岸ならではの虫とかはいない.かわりに「山陰のカニ」を掲載しているのである.
 以上,ことし3回目の13日の金曜日に書きました.

- ヒビムシ秋編 2015年11月25日号 -

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.

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