ヒビムシ 4-09

呑吐ダム:アシナガバチの巣

沢田佳久

 四国,室戸方面へ行ったのに,天候に恵まれず,すごすご帰還した.思えば二月にも似たような状況があった(冬編第三回).現在11月22日,けっきょく帰った後の近場での話を書いております.
 行き先は秋編第二回で言及した「呑吐ダム」.志染川右岸の,山田坂本より下流に位置する場所で,堰堤付近は三木市志染町に含まれる.小春日和となった19日に,この辺りをうろついた.

 呑吐ダムのダム湖である衝原湖に沿う県道は,その左岸を通っている.対岸として見えている右岸は南向きの斜面であり,ちょっとした岩場もあって,秋には鮮やかな景色を眺めることができる.今回もそれを期待して行ってみたのだが,紅葉にはまだ少し早かった.
 下流側から右岸側に回り込んで駐車場に着くと,意外なことに小さめのバスが二台もとまっていた.自家用車も二台いる.バスの貼紙を見ると小学校の団体らしい.運転手さんが暇そうにしていたので「遠足ですか」と声をかけたら「社会見学です」と否定された.「そらどうも失礼しました」お互いに苦笑.
 下流側に歩くと堰堤の建物の方から子供たちの歓声が聞こえてきた.

 植生としてはコレということはなく,雑木林をベースに,公園化のために植えたまま放置されているような植物が散在,そんな感じだ.この日もまず,ほったらかしの生垣でオオカマキリの卵を見つけた.新しいものだ.撮りやすい場所に生んでくれているのだが,あまり形がよくない.もちろん一応撮影.葉を落としたサクラの幹を見ていくと,ヨコヅナサシガメの幼虫,クサギカメムシ,いつもの顔ぶれだ.アカメガシワの葉にも派手な色彩の毛虫がいた.見覚えのあるやつだが,名前は覚えていない(あとでゴマフリドクガと同定).それらも貪欲に撮影する.
 ノイバラの小さな実,サルトリイバラの大きめの実,どちらもちょうど真っ赤になっている.植物は背景の距離やら影の入り具合やらを考えながら撮影する.

 ノイバラのやぶにアシナガバチの巣があった.ハチはもう居ないが,今年のもののようだ.巣の周囲を刺だらけの細枝が取り巻いていて防衛効果も絶大である.良い場所に巣を構えたものだと感心しつつ,撮影の邪魔になる枝を折ったり曲げたりする.かなり苦労,というかすこし負傷し,半ば意地.
 なんとか上からと下から撮影した.あとで画像から数えてみると育房数は100ほどあった.縁の方には建設途中の,カウントすべきか微妙な房がある.ともかくよく栄えた巣だ.
 そういえば,巣の創設場所えらびが下手なアシナガバチの事を,最初の回(夏編第一回)に書いた.それと反対の成功例がこれだ.


アシナガバチの巣 立体写真の見方

 繭の蓋が黄色いので現場では黄帽子(キボシアシナガバチ)だと思っていたのが,帰ってから調べるとヤマトアシナガバチのそれも似た色であるという.両種は巣の増築のしかたが異なり,十分に発展した巣に関しては,柄のつき方や上面の反り方で見分けられるらしい.
 ヤマトは最初の柄を中心に360度,均等に増築していく.いっぽうキボシは傾いた巣の下端に追加していく.そのため巣は更に傾き,育房数が増えるほど長くなり,天井も弧を描いて反り返るというのだ.
 今回の物件はどうか? 全体に丸いのでヤマトっぽい.ところが柄は片寄った位置にある.天井は少し凹んでいる.どっちだ?
 おそらくキボシアシナガバチのものではないかと思う.ではなぜ丸いのか? 写真を見ると増築の過程で左手前からの細枝を一本取り込んでしまっているのが分かる(撮影のために折ったのはマズかった).最初の柄以外に本来ない支持構造が加わった事で,それ以降は増築にともなう傾斜が発生しにくくなり,八方にというか六方向に平均的に増築することになった.そう解釈できるのではないかと思う.

 なお巣の裏側を撮っていて,ちゃっかり越冬場所として利用しているクモを発見した.オニグモの類い,造網性のやつが脚を揃えて体育座りをしている.今シーズンはもう営業終了,春までこうしているつもりなのだろうか?


オニグモ類 立体写真の見方

 一方,まだまだ活動しているクモもいる.日の当たる場所ではここでもセイタカアワダチソウが咲いていてハエやアブが飛び回っている.そんな花ではカニグモの類い,ヤミイロカニグモかその近似種が脚を開いて獲物の飛来を待っている.普段なら人間の接近に気づいて退避するのだが,この日は捕食の構えのまま止まっている.おかげで二個体で勇ましい姿を撮影できた.


キゴシハナアブ 立体写真の見方

 花に来ている双翅類としてはキゴシハナアブとツマグロキンバエが多かった.両種とも目が魅力だ.ごく普通種なのだが,ついつい撮ってしまう.これらは頻繁に飛び回っても毎回きちんと着陸して翅の閉じて摂食する派の虫である.細かな移動は歩きである.
 それとは逆にホバリングしたままが基本で,たまに止まっても翅を開いたまま,羽ばたきながら摂食する派の虫もあって,多くのヒラタアブ類がそうである.細かな移動も飛行だ.空中撮影を挑みたくなる相手である.この日,こちらは少なかった.オオヒメヒラタアブを撮影できたが,空中では撮れていない.

 クズの葉でベッコウハゴロモの幼虫を見つけた.体を逆海老に反らして,腹の先端にある毛の房を突き立てた格好である.こちらに気づいて葉の裏に表に,影に日向に歩き回った.止まらず動き続けている.動きは緩慢だが撮影しにくかった.おそらくこれがこの温度での最高速度であり,全力離脱なんだろう.それでもジャンプすることはなかった.


ベッコウハゴロモ幼虫 立体写真の見方

 小さめの変な虫はいろいろいた.テントウの幼虫がアブラムシを捕食していたのだが,前胸背に明瞭な紋があり,見たことのない虫のように思った.ナナホシの若い幼虫が痩せこけているだけかもしれない.よく肥え太ったツノロウムシも撮影.
 焦り気味に歩いているヒメジュウジナガカメムシがいて,越冬場所を探してるのかと思っていると近くの咲き終わった花にも一匹,二匹,そして近くのガードレールの裏側にウジャーっと越冬集団ができていた.壮観ともキショイともいえる光景だった.臭いはない.幼虫も混じっている.つまり,彼らは歩いて集まって来たのだ.
 アカハバビロオオキノコの徘徊にも遭遇した.朱色が鮮やかな虫が緑の草の葉に止まっている.離陸体勢だが,途方に暮れている様子だった.この虫が好みそうな硬めのキノコを近くで何回か見かけたので,まぁこの環境に居そうな虫ではある.しかしこの状況は明らかに迷子である.低温で飛べなくなる前に,どこかのまほろ場にたどり着かなければならない.この1フライトで寒めの場所に降りてしまったら,過酷な結果となる.
 フユシャクの予備軍も出はじめた.蛾が弱々しく飛びたって,近くに止まったので着陸した辺り探すと,それらしいベージュ色.シダの葉の隙間に翅が引っかかったような変な体勢で止まっていた.納まりが悪そうだ.再度飛び立ちそうなので,こちらも変な体勢のまま急いで撮影しまくる.しかし変な体勢は徐々に改善され,最終的には模範的な三角形になった.行儀よく鎮座した姿を撮影.帰ってからナカオビアキナミシャクと同定した.

 駐車場に戻ると他の車はなかった.堰堤の手すりにナミテントウが何匹も止まっていて,冬越しの準備が着々と進んでいる感じがした.

- ヒビムシ秋編 2015年12月02日号 -

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

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